「エクスペリエンス主導型コマースはコマースの未来である」と、Adobe社エグゼクティブバイスプレジデントのBrad Rencher(ブラッド・レンチャー)1 氏が発言したのは2018年のことです。エクスペリエンス主導型コマースの未来が最初に予想されてから2年がたちました。条件がそろったので、エクスペリエンス主導型コマースは今や現実になっていると言って差し支えないでしょう。
Eコマースは、消費者が買い物を行う方法と企業が業務を行う方法を完全に変えました。エクスペリエンス主導型コマースは、商取引にとって本当に次のビッグウェーブなのでしょうか。また、消費者のオンラインショッピング体験をどうやって変えているのでしょうか。
エクスペリエンス主導型コマースの定義
Adobeによると、エクスペリエンス主導型コマースとは、リアルタイムのショッピング行動とマルチチャネルデータから得る知見をもとに、発見から購買までに至る顧客体験を最適化して提供することによって売上を最大化すること」です。
以下は、エクスペリエンス主導型コマースの具体的な説明です。
- 顧客中心 – 消費者が求めているものに共鳴する方法で商品を提案する
- オムニチャネル – すべてのチャネルにわたって購買者と購買者のニーズを満たす
- 関連商品コンテンツ – 購買者に、正確かつ最新で漏れのない豊富な商品コンテンツを提供する
エクスペリエンス主導型コマースが従来の商取引より優れているのは、今日の消費者が、自分の欲しいものを自覚して手に入れるのに十分な知識をもっているからです。今日の消費者は、パーソナライズされた体験、つながり、関わりを求めています。つまり、企業は、関連性と競争力を保ちたければ、エクスペリエンス主導型コマース戦略を作り上げる必要があるということです。
エクスペリエンス主導型コマースを推進させる必須事項
エクスペリエンス主導型コマースへの移行を加速させているのは、次のことです。
- 消費者の年齢
現在最も大きな消費者グループはミレニアル世代です3。そして、ミレニアル世代よりも好みがうるさく情報に長けているZ世代がそのすぐ後に続いています。こうした現在の主な消費者と、まもなく消費者に加わる世代は、デジタルの利便性を身近にして成長しました。彼らは、アクセス可能でパーソナルなブランドしか認知していません。 -
ブランドには顧客中心主義が不可欠
ブランドは、自分たちが提供するすべてのものを受け入れてくれることを、こうした新しい種類の消費者に期待することはできません。したがって、消費者、つまり消費者のニーズ、嗜好、購入場所と購入のしかたを知る新たな方法を模索する必要があります。データが消費者行動を理解するための土台の手がかりとなります。そのため、ブランドは、消費者のニーズに合わせた体験を提供したいならば、データの力を利用しなければなりません。
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継続的な接続
世界の人口の53%4 がインターネットに接続しており、デバイスの価格が手頃になるにつれて、この数字は増え続ける一方です。また、2030年までに、普通の人は最低15台4のインターネット接続デバイスを所有して使用することになると見込まれています。したがって、大半の消費者がデバイスに簡単に手を伸ばして、インターネット上で必要な商品やサービスを調べて購入を完了し、体験の良し悪しをシェアすることができます。消費者は、数回のスワイプでブランドの成否を左右できるというわけです。
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ブランドにはオムニチャネルが不可欠
今日の消費者は、欲しいものを欲しい時に入手できることを期待しています。競争力と関連性を保つために、ブランドは、デスクトップ、ノートPC、携帯電話、タブレット、実店舗というプラットフォームすべてにわたってシームレスな体験を提供する戦略を導入しなければなりません。
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パーソナライゼーション
大半の購買者は、体験がパーソナライズされるという見返りがある限り、個人情報を共有することに前向きです。事実、
・61%5は、ブランドが自分のニーズを理解できるように、進んで個人情報を共有しています。そのうえ、ロイヤルティを構築し、顧客基盤を拡大するには、パーソナライズ化された購買体験を提供することがブランドには必要です。
・52%の消費者は、パーソナライズ化されたコミュニケーションを企業が行わなければブランドを乗り換えるとコメントしています6。
・25%の消費者は、パーソナライズ化の不足が原因でブランドとの関係を断ちました7。
・35%のミレニアル世代消費者が、パーソナライズ化が足りないブランドの利用を取りやめる意志があります7。
ブランドは、パーソナライズされ、消費者の状況に即した商品体験を提供する必要があります。 消費者がブランドを推奨するのは、ブランドが自分の期待を満たしたり、上回ったりする時です。ブランドは、顧客のニーズに明確に応じるショッピング体験を創出するために、顧客と顧客の購買ジャーニーを理解しなければなりません。
それでは、ブランドはどうすればエクスペリエンス主導型コマースに対する需要に応えることができるでしょうか。
エクスペリエンス主導型コマースの実現
エクスペリエンス主導型コマースに注力したいブランドは、自社のeコマース戦略構想を練り直す必要があります。多くのブランドは、デジタル変革ジャーニーに乗り出すことから始めなければならないでしょう。デジタル変革は、eコマース分野における技術革新のきっかけとなります。
デジタル変革によって、ブランドは人、プロセス、データ、テクノロジーとつながることができるようになります。具体的に言うと、デジタル変革によってブランドは、組織や技術のサイロ化を排除することができます。また社内プロセスを改善して、ブランドが正確な最新情報をパートナーやオーディエンスに提供することもできるようになります。体験主導型ビジネスに期待される成功を生み出すために魅力的なブランドメッセージを作る際には、このことが欠かせません。
デジタルブランドはどんなときも、消費者を理解し、商品提供を強化して、チャネルにとらわれない体験を提供するのに絶好の位置に立っています。また、ブランドは、さらにエクスペリエンス主導型となったアプローチに移行する際に、以下の要素を検討する必要があります。
- テクノロジー。ブランドは、eコマース戦略に十分対応することができる適切なテクノロジーを活用することが必要です。必要なソリューションは販売商品やターゲット市場に左右されます。根本的には、選んだテクノロジーは、商品情報のパーソナライズ、分析、テスト、デジタル資産管理が可能なソリューションを提供できるものでなくてはなりません。
- データ。 極めてパーソナライズが進んだ体験は、データから始まります。ブランドには、どこでどのような方法で誰がデータを使用するかは問わず、データが高品質(常に完全、正確、最新で豊富なデータ)であるようにするために、SoI(System of Insight)が必要です。これに加えて、データのもつ潜在力をフルに活用する分析として、データをインテリジェントに使わなければなりません。
- コンテンツ。 商品コンテンツは極めて重要です。消費者のニーズ(必要性)とウォンツ(欲求)に訴えかけなければなりません。購買体験にまつわる状況を提供するために、商品コンテンツは、ターゲットオーディエンスのペルソナ、嗜好、所在する場所、ニーズに合わせる必要があります。
エクスペリエンス主導型コマースの起点は商品体験
優れたエクスペリエンス主導型コマースは、顧客の購買ジャーニーのあらゆる段階で顧客に応えることから始まります。それには、購買の意思決定に必要な情報を探すために消費者が各種チャネルをどのように使うかを理解することが不可欠です。ブランドは、購買ジャーニーの途中で消費者を圧倒せずに、適切なメッセージを送らなければなりません。さらに、購買ジャーニーをシームレスで手間のかからないものにする必要もあります。
エクスペリエンス主導型コマースを実現することは、複雑である必要はありません。しかし、消費者の将来の期待や嗜好に適応できる適切な戦略が必要になります。