かつて、さまざまな戦略を使って機能していた商取引の世界では、企業が販売する商品をコントロールしていました。包括的なキャンペーンや広告を主な手段として、消費者が興味や関心をもち続けそうな情報を選別して公開していたのです。消費者には選択の余地がなく、企業が売り出していたものを受け入れていました。
すべてが変わったのは、デジタル時代が始まった時です。
今や、消費者はリソースにすぐ手が届きます。インターネットでたくさんの新しいツールを自由に入手できる消費者は、もはや、ブランドが不必要な商品を差し出してくるのを受け身で待つ、声なき傍観者ではありません。つまり、今日のブランドは、消費者の需要を満たす以上の課題に直面しているというわけです。しかも、各ブランドが競って取り合っているのは、どこか違うものや何か新しいものを常に待ち構えている現代の購買者が抱いている、長続きしない興味です。
今、消費者の力はこれまでよりもずっと強くなっています。消費者は、独自のニーズや嗜好に基づいてパーソナライズされたオーダーメイドのコンテンツに対する需要で、商取引の世界を変革し始めました。しかも、これまで消費者は在庫に縛られていましたが、特に地域や物流の制約がなくなった今では、ほぼいつでも欲しいものを選択できます。この消費者の時代、ブランドを優位に立たせることができるのは、ブランドが提供可能な体験です。
顧客体験とは、消費者とブランドとのやり取りの全体的な品質のことです。商品の発見、実店舗やオンラインでの意思疎通、包装、フルフィルメントなど、すべてのタッチポイントが顧客体験というジャーニーの一部です。
多くのブランドは、物理的な店舗からデスクトップへ、販売員からソーシャルメディアへ、そして今度は商品から体験へと事業戦略を転換するために、過去の常識を覆す意思決定を行ってきました。 86% の購買者が、良い体験のために費用をかける意思があるため、ブランドにとっては、顧客体験がこれまで以上に重要になっている理由に細心の注意を払うのに最適なタイミングです。
現代の顧客は、豊富な個人情報を入手する機会をブランドへ自発的に与えています。同時に、1回のクリックやスワイプですぐに利用できるオプションがたくさんあるため、消費者はあっさりと他のブランドに乗り換えがちです。Walker社の調査によると、顧客体験が、いずれは価格や商品を超える重要なブランド差別化要因になることが判明しました。また、PWC社のレポートによると、80%の消費者が、迅速かつ便利で知識豊富なサポートこそブランドが満たすべき最も不可欠な期待事項であると確信しています。
利用可能なオプションが多数あれば、顧客は、デバイスを使って、いつでもどこでも簡単に商品を検索して購入することができます。Genesys社によると、83%の消費者が、ブランドがオムニチャネル体験を提供することを望んでいます。オムニチャネルの実現により、消費者はどのタッチポイントでも一貫した体験をすることができます。
消費者は、ソーシャルメディアでブランドを探し出し、モバイルデバイスを使って購入を完了するので、消費者にとってブランドの存在感が際立ちます。さらに、ブランドが競合他社より優位に立つので、見返りもあります。Adobe社のレポートによると、堅牢なオムニチャネル戦略を展開しているブランドは、次のことを経験しています。
消費者の3人に1人が不快な体験を1回するとブランドの利用をやめ、92%は不快なやり取りが2、3回あるとブランドを完全に放棄することに、ブランドは注意する必要があります。その一方で、良い体験を提供すると、消費者はブランドにとどまり、リピート購買者になります。実際、87%の顧客は、自分が望むまたとない体験を提供する企業から、もう一度購入しています。さらに、73%の消費者が、良い体験がブランドロイヤルティを左右する決め手であると述べています。消費者は良い体験を高く評価し、好みのブランドを他者に推奨することによってブランドに見返りを与えます。
Gartner社によると、81%の企業が顧客体験を主に基準にして競合しています。これは、顧客と真のつながりを築くために体験を提供することの重要性を、ブランドが理解しているということです。その一方で、すでに、62%の企業が顧客体験に焦点を着実に移しつつあるため、ブランドにはすばやい行動が必要です。競争上の優位性は非常に大きく、顧客体験は、顧客を取り込んで存在感を際立たせるための新たな競争の場となっています。
体験主導型の企業になるためには、適切な戦略を敷くことがブランドには必要です。これには、適切なツール、適切なプロセス、最適な人材を用意することが含まれます。適切な方法で実行すれば、大きな見返りがあります。Temkin Group社によると、年間収益10億ドルの企業は、顧客体験に投資してから3年以内に平均7億ドルの増収を見込めることが分かっています。ほかの有力な統計によると、顧客体験への投資の影響として以下が挙がっています。
現在、業績の高いブランドは、できるだけ独自性の高い魅力ある体験を顧客に提供するために、前向きな対策を講じています。また、より顧客中心主義の強いジャーニーに乗り出し、顧客を取り巻く戦略を構築しています。関係構築、顧客フィードバックの確保、新しいテクノロジーの導入など、顧客中心の形態はいろいろです。
これは、ビジネスの長期的成功を後押しするための手堅い戦略とはいえ、骨の折れる取り組みです。ただし、消費者体験をさらに個人に合ったものにし、かつ状況に関連付けることができる適切なソリューションを備えることによって、複雑さを軽減することは可能です。