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デジタルシフトするグローバルビジネス

作成者: Contentserv|2021/08/14 1:55:00

グローバルコマースは年20%超のスピードで拡大しています。コロナ渦で様々なもののデジタル化が進む中、国や言語の垣根を飛び越え市場を拡大していくことは企業にとっても急務です。増え続けるデータをいかにうまく管理し、多言語化して活用していくのか。

一歩先を行く商品体験を実現するContentservの渡辺と、グローバルに翻訳サービスを提供するトランスパーフェクト・ジャパンの小杉氏が、商品情報管理と翻訳の観点からグローバルコマースにいかに取り組んでいくべきかについて対談しました。その内容を一部ご紹介します。

本記事はトランスパーフェクト・ジャパンとContentservパネルディスカッション「デジタルシフトするグローバルビジネス」(2020年12月開催)をもとに編集しました。


小杉 弘樹氏
トランスパーフェクト・ジャパン合同会社 営業開発担当ディレクター

アメリカ NYに本社を置き、グローバルで110前後のサービス拠点を持つ翻訳・言語サービスを提供するグローバル企業。営業担当として日本法人の立ち上げに携わった後、翻訳・ローカリゼーションの法人新規開拓営業を担当。現在は主に日本のマーケットにおける製品の営業に従事している。

渡辺 信明
株式会社Contentserv 代表取締役

Eコマースのラストワンマイルのコンテンツを充実させたいとの熱い思いから、日本市場を調査し、先進的な取り組みが進む欧米で注目すべきソリューションにたどり着く。2017年に株式会社Contentservを設立し、代表取締役に就任。Contentserv日本・アジアパシフィック地域を統括。

モデレータ:牧野 好和
トランスパーフェクト・ジャパン合同会社 ビジネスデベロップメントディレクター

誰もがグローバルコンテンツに触れる時代

牧野:グローバル企業のグローバルビジネスへの取り組みについて、「言語」の視点から近年の変化はありますか?

小杉:トランスパーフェクト・ジャパンの立ち上げに携わったのは10年前になりますが、その当時と比べると提供するサービス、ソリューションは大きく変化し、翻訳業界にもデジタル化の波は来ています。翻訳・通訳というサービス自体は、どうしてもコモディティ化してしまい、違いを作るのは非常に難しいです。そうした中で、Transperfectは、デジタルコンテンツをいかにテクノロジーの力で効率よくローカライズしていくかにシフトしています。クライアント企業様にとっても、ビジネスをグローバルに展開していくためにコンテンツを多言語に展開するテクノロジーは不可欠な時代が来ていると感じています。

牧野マーケティングとデジタルコンテンツの関係はイメージがつきますが、マーケティングから購買につなげるプロセスでもデジタルシフトの影響があるのでしょうか?特にそのプロセスではBtoBとBtoCで違いがあるように思うのですが、いかがでしょうか。また、BtoC、BtoBそれぞれ、デジタルコンタンツの多言語アプローチといった取組は進んでいるのでしょうか? 

渡辺:消費者目線で感じることとして、一目で機械翻訳とわかるような、翻訳が寂しい商品が結構ありますね。だいぶ慣れてきましたが、そうした不自然な翻訳を許容できる商材と許容できない商材というのがあると思います。日用消費財や使い捨てのような商材であれば、訳が不自然であっても、あまり気にすることなく買いますが、ラグジュアリー商品、もしくは自分のライフスタイルを表現するようなこだわりのある領域が不自然な翻訳で販売されていたら、まず購買には至らない。商材によって翻訳の重要度が違うことを感じています。これはBtoCのコンシューマー視点での話ですが、BtoBの取引においては正確な翻訳が求められることがほとんどではないでしょうか。

小杉: そうですね。特に日本というマーケットで見ると、日本人は他国に比べて非常に 品質への要求が高いですね。翻訳ビジネスでも、例えば当社本社の人たちが自社サイトを十何言語に展開した場合、何か問題が出てくるとしたら日本のマーケットなんです。そのため、日本の方々にサービスを提供する我々はそこに気をつけながらやらなければいけない。しかし裏を返すと、グローバルではそこまで細かいところまで見ていないかもしれないという点は、日本からグローバルに発信する場合に視点としてあったほうがいいと思います。

協業することの多いEコマース、特にBtoCの場合は、コンテンツ量が膨大で、そのコンテンツを多言語で準備しようとするときに、すべてのコンテンツの翻訳品質を良くしようとすると、かなり難易度が高い。よほど規模の大きな会社でなければ実現できません。そうなると、コンテンツによってローカライズのやり方を分けたり、その良し悪しが売上にどの程度影響するかを意識しつつ、メリハリをつけた考え方が大事になってきます。

「売る」を支えるコンテンツのサプライチェーン

牧野:品やサービスを展開する企業によるアプローチの現状を企業のデータ管理の視点でどう見ていますか?

渡辺:「モノのサプライチェーン マネジメント」という言葉は皆さんなじみがあると思うのですが、コンテンツに関してもサプライチェーンの概念がある、ということは、ぜひお伝えしたいと思います。そこが断絶していたり、時間がかかってしまって非効率があるということは、事業継続性に関わるクリティカルな問題です。在庫を整理しても売るための情報が揃っていなくては市場に出せません。

コンテンツのサプライチェーンでは、様々なエコシステムやステークホルダーから商品に関する情報やマーケティングに関するコンテンツを授受したり、自主制作して、現地化していくという作業があります。PIM(商品情報管理)の導入を検討されるきっかけは、データが散在している、ガバナンスが効いていない、どの地域でどんなコンテンツがお客様に渡っているのかよくわからない、古いバージョンが使われてしまっている、といったことがあります。

そうした商品情報管理の問題とローカライズを別で捉えて、取り組まれることが多いんですが、本来は同時に取り組む必要があると思います。実際、PIM導入プロジェクトを始めてから、やはり翻訳(対訳辞書)も大事な資産だという結論になって、ローカライズ部分(翻訳管理システム:TMS )の検討を始めるというケースが結構あります。

デジタルシフトによる変化

牧野:デジタル・シフトについて、今現場で起こっている具体的な変化をどう見ていますか?

渡辺:この半年間の変化は、2017年にContentservを立ち上げてからの3年を超越していると感じています。DXの文脈でいうと3Kが進みました。

まず1つは行動様式(こ・Ko)です。マーケティングの観点では、ペルソナ自体が変わったので、ジャーニーマップを更新するだけでなく、ペルソナ自体から上書き更新していかなければいけないということが起きています。

2つ目は顧客接点(こ・Ko)。人手を介せないので、これまでは人がキュレーションしたり、パーソナライズしていたことを、最初から最後までデジタルで補っていかなければいけません。

3つ目は、規則や物事の基準(き・Ki)が一気に変わりました。今まで会社に来ていたからできたことが、リモートワークが始まった途端にできなくなってしまいました。コンテンツのサプライチェーンが止まってしまったんです。商品情報やマーケティングアセットが会社のファイルサーバにある、誰かのデスクトップの中にあるという状態では、リモートワークが始まったとたんに、生産性が劇的に落ちるということが起きています。

我々のお客様からは、withコロナになってから、「早いうちに決断しておいて良かった。すでに本番運用しているから、こういった変化に対して迅速に適応できている」というお言葉もいただいています。PIM readyな会社とPIM not readyな 会社で、生産性や売上に劇的に差がついているということが顕在化し、証明されたと思っています。

小杉氏:ローカライゼーションに関して言えば、特にコロナ渦が始まってからは、クラウド製品に対する需要の高まりを感じています。これまでは会社で自分のPCでコンテンツを管理していれば問題なかったものが、リモートワークになってアクセシビリティがきっかけで検討されるケースが増えてきています。

渡辺:我々のソリューションに関してもそうですが、日本での急速なニーズの高まりは、これまでの遅れ、Excel・ファイルサーバ文化の裏返しとも言えるのではないでしょうか。

PIMに求められる役割の変化

牧野マーケットが国内であっても国外であっても、PIMは顧客体験を最大化させるための基盤と言えますね。PIMの具体的な運用イメージを教えてください 

渡辺:2017年から今日までの流れを振り返ると、PIMに対するお客様の期待やニーズは、はじめはIT視点(PIM1.0:データのガバナンス強化、コンプライアンス・法令順守、業務のムダの削減)から始まりました。これらは今でも非常に重要なテーマではありますが、その後にPIM2.0で記載しているようなPIMが本来得意とするところ、マーケティング セールス プロモーションというところでのContentservの活用が進んできています。

そしてさらに今日では、ブランディングに使いたい、もっとエンゲージメントのすべてを一元管理してオムニチャネルで配信していきたい、というご要望があり、ミッションクリティカルなシステムとしてPIMを捉えていただくようになっています。

グローバルコマース成功の鍵は3ライズ

牧野:企業はグローバル・コマースに対応するために、どうすればよいのか、を具体的にお伺いしたいと思います。 例えば、これまでは「Product」「Price」「Place」「Promotion」の4Pがマーケティングの基本と言われていましたが、 一瞬でグローバルにコンンテンツが届くデジタル社会でも、こういった従来の考え方はそのまま通用するのでしょうか? 

渡辺:グローバルコマースの成功の鍵は3ライズと言えます。3ライズとは、ローカライズ(Localize)、コンテクスチュアライズ(Contextualize)、パーソナライズ(Personalize)のことです。パーソナライズを実現するのは非常に難しいです。そこに至る過程で必要なものの一つは、ローカライズです。単純に翻訳(Translate)すればいいのか、ローカライズ、現地化が必要なのか。その違いを意識して、必要なローカライズを行っていくことが重要です。

牧野:3 ライズはこれまでのマーケティングの教科書にはない、デジタル・シフト後のグローバル・コマースの大原則ですね。 では3ライズを実現するために、企業はどう変わっていかなければならないでしょうか? 

小杉:翻訳業界としては、翻訳管理システム(TMS)を使って対訳データ、言語データを資産化していく、そして資産化したものを再利用していくということをお勧めしています。

渡辺:さらに、コンテクスチャライズ、文脈化と言いますが、お客様のジャーニーマップや利用シーン、ユースケースに適合する形でパターン化していく必要があると思っています。単純なワンセンテンスでも、いくつかのパターンを準備し、前後関係の脈絡としっかり整合性を取っていくことです。

そして、パーソナライズで重要な視点はTPPO、TPO+Person(お客様自身)です。パーソナライズは、すなわち体験化だと思うんです。パーソナライズなしに、顧客体験は達成し得ません。PIMとTMSはこの3ライズの実現を強力にサポートします。

小杉氏:そうですね。対訳データはTMSでしっかりと管理して、商品情報であればPIM、EコマースであればSalesforce Commerce Cloud、WebサイトであればCMSなど様々なフロントエンドのシステムにAPI連携して、効率よく使っていくこと。そうしなくては、肥大化するコンテンツに対して、言語の面で対応することはほぼ不可能になってきています。

言語の面でのデータ化には、いろんなテクニックがあります。翻訳のキャリブレータを貯めていくことや、翻訳ではなくローカライズという意味での翻訳ルールなどです。

渡辺:ContentservとTransperfectのシステムとの接続には専用のコネクターをご用意しています。翻訳されたコンテンツをContentservが複数のチャネルにシンジゲート(配信)していく仕組みを提供しています。

グローバルビジネス、これからの展開

牧野:年20% 超の成長を続けるグローバルコマースに乗り遅れないために、取り組むべき戦略、これからの展開について、どう見ていますか?

渡辺: グローバルコマースに限らず、事業自体のパラダイムシフトが起こっています。電気自動車を例に挙げると、電気自動車は単純にクルマの延長線上にあるものではなく、アーキテクチャ的にまったく違うものなわけです。つまりサプライチェーンもエコシステムも変わっていきます。そうなると自分たちの強み・弱みというのも、必ずしもこれまでの延長線上になかったりします。逆の言い方をすると弱みが強みになったりするかもしれない。

異業種からの参入もますます盛んになっています。購買行為については、BtoCではサブスクリプションの利用が進んでいますし、BtoBの投資ではCAPEXからOPEXへのシフトで、短期間に財務リスクを抱えることなくアジャイル的にビジネスを展開できるというのが常識になりつつあります。こういう時代にはTime to Market、Time to Value、Life Time ValueというようなKPIを見ていくべきだと考えています。

Time to Market” には2つの意味があると考えています。異業種からも参入するわけですから、自分たちも早く市場に商品を投入していかなければいけない、というフィジカルなサプライチェーン マネジメントがあります。 それに加えて、在庫はあっても売るための情報が整ってなければ、販売できません。コンテンツのサプライチェーンです。モノのサプライチェーンだけでは市場投入できないんです。コンテンツのサプライチェーンの断絶は、Time to Marketの阻害要因です。そこをしっかりと確立するのがContentservの役割だと思っています。翻訳という観点でも同じです。

Time to Value” 市場に商品やサービスを投入したら、お客様に最短でその価値に気づいていただかなくてはいけない。では、どうやってその良さを知っていただけるかというと、やはりデジタルコンテンツの活用です。そのためにデジタルコンテンツの整備、すなわちパーソナライズが必須になります。

3つ目が”Life-time Value”で、最初からたくさんの利益を得るというより、サブスクリプションモデルの中でいかに継続的なお付き合いをして、顧客生涯価値を最大化していくかという発想に基づいて継続的なコンテンツの提供であったり、クロスセル・アップセルの情報を提供していく。押し売りではない心地よさの境界線をしっかりと管理しながら、必要な情報を必要なタイミングでお届けしていくための仕組み作りというのはとても重要だと思っています。

牧野:誰もがグローバルコンテンツに触れる今の時代、お客様を中心に3 ライズ  デジタルコンテンツを提供していくためには、データの効率的な管理・共有を通じて、より早く文脈的な商品コンテンツを届ける仕組みを構築する必要性、すなわち、「売る」を支えるコンテンツのサプライチェーン構築の重要性についてお話しいただきました。ありがとうございます。