デジタルシフトがますます加速する今、いかに上質なデジタル体験を提供できるかが企業の競争優位性を左右します。eコマース事業を考える上で、企業とブランドに必要な戦略とは?本記事では、優れた顧客体験の創出のためのCXデザイン、PIMとDAMを活用した顧客の琴線に触れるコンテンツマネジメントを通して、これからコマース戦略を描くためのヒントを紹介します。
<目次>
※本記事は、Contentserv Product Experience Summit Tokyo 2021における電通デジタルとジェネロ、Contentserv 3社のパネルディスカッション「CXを軸とした企業のデジタル化戦略とコマース事業の最適化」をもとに編集しました。
<パネリスト>
株式会社 電通デジタル
アカウントイノベーション部門 アカウントディベロップメント部 マネジャー 船井 宏樹氏
Profile: リテール企業での10年間のマーケティング業務経験の後、マーケティングソフトウェア企業にてビジネスコンサルタントおよびシニアカスタマーサクセスマネージャーとして7年間従事。コマース業界を中心に分析/接客改善のコンサルティング実績多数。2019年より現職。顧客体験設計とテクノロジー活用の組み合わせにより、企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援を行っている。
ジェネロ株式会社 代表取締役 竹内 大志氏
Profile: プライスウォーターハウスコンサルタント(現、日本IBM)、東京めたりっく通信を経て、2001年ジェネロ通信設立。NTTダークファイバーを利用したネットワークサービス事業の設計・管理に従事。2003年、ジェネロテクノロジー創業。
モデレータ: 株式会社 Contentserv 代表取締役の渡辺信明
電通デジタルとしてカスタマーエクスペリエンス(CX)をどう考えているのか。 CX (Customer Experience) は日本語にすると「顧客体験」となるが、“コマース”の視点で見れば「購買体験」とも言えると船井氏は説明。より快適でより便利、よりスムーズな購買の体験と考えた場合、ではそういった購買体験とは具体的にどういったものか。身近なところで考えると、私の妻はスマートフォンの操作がそれほど得意ではないのですが、あるハンバーガー店に行くときはあらかじめモバイルオーダーしておき、店舗では受け取るだけ。デジタルテクノロジーを活用したこのような体験が一般化してきています。この流れが進む直接的なきっかけとなったのは、やはりコロナ禍であると考えています」と語った。
船井氏は企業・ブランドの実際の活動として、コロナ禍で店舗営業ができないことからオンライン接客ツールを投入し、オンライン販売を積極的に進めた伊勢丹の事例を紹介。「オンライン接客を行った顧客の買上率は50%に上り、現在はきわめて質の高い接客をオンラインで提供できる形になっています」と解説した。
また、アパレルのアダストリアがオンラインとオフラインを融合したOMO型店舗を展開した取り組み、雑貨業のAWESOME STOREが店舗内に設置したブースから様々なコンテンツを配信し、店舗内外でシェアされるようにした取り組みも紹介した。
その上で船井氏は「重要なのは、こういった多様な取り組みがコロナ禍後になくなってしまうのではなく、顧客は便利なサービスをコロナ後も活用し続けたいので、企業やブランドへの期待値が高まっているということです。ですから、これまで通りに良い商品・良いサービス・良い店舗を展開をするだけでは顧客の期待にミートせず、顧客体験を再設計してそこに投資することが今後のビジネスにおける競争の一つになってきます。よって、いま企業は、顧客体験を自社としてどう定義し、どう変えていくかを考え始めたところでしょう」と語った。
これを受けて渡辺は、「例えば、飲食でいえば、従来は味やお店の雰囲気などが顧客の意思決定要素でしたが、いまはオーダーやキャッシュレス対応も含めてデジタルが活用されているかどうかがより重要になっている。デジタルでプラスワンの味付けがされていることが顧客体験の必須要件となり、そこを無視すると顧客が付いてこない状況が始まっていると感じます」と話し、このような顧客体験を構成するために欠かせないテクノロジーとアーキテクチャについて竹内氏に尋ねた。
竹内氏はCXを実装するアーキテクチャとして、「まず真ん中にCMSがあり、そこでコンテンツを集約していきます。そのデータのソースとしては、PIMの商品情報とCRMの顧客情報が両輪になります。顧客との接点においては、SNS、メール、Webサイト、モバイルアプリ、デジタルサイネージ、そしてコマースの体験などなど多彩なタッチポイントがあり、CMSはそうした様々なタッチポイントのボディとして機能します」と解説した。そして、こうした多種多様な要素をクロスチャネルで置いていると、膨大な量のデータが生じる。そのデータをCDP(顧客データプラットフォーム)に蓄積し、機械学習でセグメントした上で、プッシュ型ならMA(マーケティングオートメーション)、プル型ならパーソナライゼーションによって、フロントへ提供していく。
そこでCMSの役割は「エクスペリエンスを提供するプラットフォームになってきています」と指摘。加えて、Webサイトのエクスペリエンス設計一つとってもコーポレートサイト、ブランドサイト、サポートサイト、ECサイトなど様々なパターンがあり、それをプロダクトや地域で分けると大企業では数千サイトまで膨れ上がるケースもあるため、「PIMでいかに整理していくかがポイントになります。PIMとCMSの連携でデータを一元管理し、フロント側のコンテンツ配信やデータ活用をスムーズにしていくことで、データが整理され、マーケターはマーケティングのキャンペーンに注力できます。攻めのマーケティング施策のMA、そしてパーソナライゼーションが現実になってきます」と語った。
渡辺は、竹内氏が話すアーキテクチャの構成要素としてPIMやDAMが求められているとし、「CRMの重要性が広く認識されているのに対してPIMはまだまだ認知率が低く、商品情報を統合管理する仕組みは導入されていない企業が多いのが現状です。顧客情報だけでなく、商品情報もなければビジネスは回らないので、商品情報が一元管理され、コンテンツが最適化された形で企業内に存在する必要があります」と話した。
ここで船井氏は、マーケターとしてコマースサイトを運営していたときの経験に言及した。当時船井氏は、カタログに掲載している商品のWeb販売以外に、商品開発に関わるMDの業務も担っていた。その中で業務時間の大半を占めていたのが、商品データの整備だったという。
「データベースに商品のスペック情報はあるのですが、実際にWebで商品を販売しようとしたときは商品画像が必要ですし、セールスコピーも書かなければいけません。そのアイテム数が何十、何百になると、データを集めてくるだけでも相当な時間がかかってしまいます。また、販売後もモデル画像の版権管理といったメンテナンスが必要になってきます。DXで顧客体験を高めていこうという背景には、現場のマーケターの涙ぐましい作業があるので、そういった作業を効率化するためにも、PIMは大切な役割を担います」(船井氏)
現在は顧客接点が多様化しているため、それぞれに対してデータを作っているのでは明らかに間に合わず、データを一元管理しマルチに利用していく考え方が必要になってくる。グローバルで販売を行うなら、商品情報の翻訳作業も必要だ。そこで船井氏は、商品データをグローバルで民主化し、いつでも手軽に活用できる状態を実現することが、今後のマーケティングにとっては不可欠だと強調。「PIMやDAMはプロダクトの導入という視点ではなく、現場でのマーケティング課題を解消するソリューションの導入であると考えるべきだと思っています」と話した。